キャバリアでの遺伝性疾患 




キャバリアにおける僧帽弁閉鎖不全(MVD or MR)

キャバリアの遺伝性慢性心臓弁膜症である、僧帽弁閉鎖不全(Mitral Heart Desease, MVD)について



  心臓病といってもいろいろあります。
  先天性疾患に掲げられるものとして、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、肺動脈狭窄症、大動脈狭窄症などの心臓奇形、後天性のものとして後天性弁膜症(僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全、感染性心内膜炎)、心筋症、犬糸状虫症、その他不整脈や心膜での問題、その他、とても多くの病気があります。
  その中の僧帽弁閉鎖不全という後天性の心臓弁膜症は、よく小型犬に老犬病として発症する心臓の病気として知られていますが、キャバリアでは、他の犬種とは違い、若年(3歳)〜5歳過ぎ頃のまだ若い頃にこの問題が起こるので、10年以上前から遺伝性疾患ではないかと、諸外国の獣医大などで研究が続けられてきました。数年前から顕著に遺伝性疾患としてクローズアップされてきて、イギリス、カナダ、アメリカ、スウェーデン、オーストラリアのキャバリアでの調査では、いずれも約50%のキャバリアが発症しているという恐るべき数値がクラブなどによって発表されました。それ以後、少しでもこの僧帽弁閉鎖不全(以後略してMVD)の発症率を低くするために、繁殖に使うキャバリアでの心臓のチェックの他に、遺伝性ということでその血統調査研究などが行われています。キャバリアにとっては深刻な遺伝性疾患として、多くの心臓病の中から特にこのMVDのことを記します。




  日本でもここ1〜2年の間に、ずいぶん注目を浴びるようになってしまったキャバリアの心臓病ですが、さて正確な実態は?ということになると、まだよく知られていません。
  「獣医さんに行ったら、キャバリアは心臓病になる子が多いから気をつけなさいと言われました。」
  「ふらっと倒れたので獣医さんへ行ったら、キャバリアに多い心臓病ですと言われましたが、家の子はこれからどうなるのでしょうか?」
などなど、それはいったいいかなる心臓病で、もし愛犬がそうなったらどうしたらいいのか?またその予防はできるのか?みなさんに共通の思いは、正しく認識して対処するために、キチンと知りたいというお気持ちだと思います。

  これに関しての正式な文献や研究データなどは、日本にはまだあまりありません。心臓の専門医と呼ばれる大学病院の心臓専門の獣医師、あるいは心臓に詳しい獣医師などが、海外からの情報や研究資料を入手したり、学会などに参加されたり、まだ少ない臨床例ではあっても実際にキャバリアで心臓の悪い子を診察されたりして、かかわりあった患者さん(患犬)の飼い主さんに詳しく説明してくださることはあるでしょう。でもそういう機会のない人には、断片的なことしか伝わってこないと思います。

  ここに簡単にその病気のことを書きます。 心臓の病気といっても多くの病気がありますが、その中でキャバリアにおいて特に遺伝性として高い確率で発症している心臓病は、僧帽弁閉鎖不全(Mitral Valvular Heart Disease)という名前の、いわゆる心臓弁膜症です。これは心臓にある4つの弁(大動脈弁、肺動脈弁、三尖弁、僧帽弁)のうち、僧帽弁に起こる病気です。以下略してMVDと呼びますが、心臓の弁は心臓から送り出される血液の流れを調整しています。この弁がうまく働かなくなると、血液の逆流が起こり、その時聴診器で心臓の音を聴くと、この逆流が雑音となって聞き取れます。僧帽弁は左心にありますが、僧帽弁閉鎖不全で血液が三尖弁の方に逆流すると、三尖弁膜症も合併することがあります。

  キャバリアで問題になる遺伝性のMVDは、生後3歳以上〜5歳頃に発症します。
  ではどのような症状が起きてくるかというと、心臓に寄生するフィラリアの病気の症状と良く似ています。多くの飼い主さんは、咳に気づきます。そして、何かの折りにふらっと倒れることもあります。この咳と運動不耐性が特徴です。
  ニューヨーク心臓アソシエーションの慢性心臓疾患の程度を表す4段階レベルで言うと、こういう症状が現れたときは、レベル2の末期〜レベル3の初期の程度です。レベル1では無症状、でも熟練した獣医師の聴診で雑音が聞き取れる段階。レベル2の前期も無症状だけれど、X線で左心室の肥大がわかり、続いて左心房も肥大してくる。レベル2の末期から3の初期にかけて、咳をする、散歩や運動をすると倒れるなど、はっきり症状が現れるとなっています。もしこのような症状が起きる前の無症状期に異変をとらえることができれば、ACE阻害剤という、発症を押さえる、あるいは発症を遅らせる効果のあるコントロール剤を服用します。
  最近のACE阻害剤は、ほとんど副作用がなく効果の高いものが開発されてきているので、元々慢性疾患であるMVDを、さらに早期発見により発症を遅らせ、また発症してからも、他の心臓の薬と併用することができ、その進行を遅らせる効果もあります。
  キャバリアが2〜3歳になったら、定期的な心臓のチェックをお奨めします。この心臓のチェックというのは、聴診器を犬の心臓に当ててもらう聴診が基本です。また心電図やエコーなどの検査もありますが、MVDの場合は心エコー検査が弁からの血液逆流を病態判断に極めて有効です。熟練した獣医師の聴診を受け、もし僅かな雑音でも聞き取れた時点で、エコーなどの検査で詳しく診てもらいましょう。

  MVDという心臓疾患は、小型犬に老犬病として多くみられるポピュラーな心臓病です。
  動物も年をとってくると、いろんなところが老化して衰えてきますが、このMVDも小型犬に多くみられる代表的な老人病で、マルチーズなども好発犬種です。 しかしキャバリアの場合、何故この病気が世界中のキャバリア関係者の間で騒がれているかというと、そういう年をとってくるに伴う病気としてではなく、若年期〜壮年期の元気な盛りにこれが発症する、遺伝性の病気だからです。
  過去においてはこの病気に対しての認識がなかったので、咳をしたり倒れたりという症状が現れるまで気がつかず、治療が遅れることが多かったので、短命になってしまうケースがほとんどでした。それは他の小型犬との決定的な違いで、何故キャバリアだけ若い頃にそんな老犬でが起こるようなMVDが起こるのか?これに最初に注目して研究を始めたのがスウェーデン大学でした。キャバリアでの若年齢で発症するMVDは遺伝性であると疑われ、最近ではそれはもう疑う余地はなく、どういう遺伝の仕方であるのかの解明に必死になっています。それは、同じファミリーに多く発症するという特徴があるからです。おそらくはポリジニックな遺伝ではないかという説が主流です。

  キャバリアの歴史を振り返ると、昔の貴族に愛されたトイ・スパニエルは一旦絶滅し、1900年代に入ってから、わずか6匹の犬を元に復元された犬種です。これはいかなる技量を持ったブリーダーにしてもても、至難の復元であったにちがいありません。それからまだ四半世紀しか経っていない今日、キャバリアは世界中でとても人気のある犬種としていっぱいみかけられるようになりました。いったい今、世界中にキャバリアはどのくらいの頭数いるんでしょうね!キャバリアを飼った人をみんな虜にしてしまうその性格の愛らしさ、容姿の可憐さ、人気が出て当然のことでしょう。でも、大人気で繁殖数が急激に増えると、どんな動物にとっても良いことばかりではありません。
  スウェーデンでは、遺伝というものはどうしてもあるからこそ遺伝とした上で、良い遺伝を伝え、悪い遺伝を押さえるようなコントロール可能な繁殖数というのを割り出しています。国の人口から、犬の数はこのくらいまでが適切であるという数字まで出して、一定以上にある動物が増えすぎないようにコントロールしています。犬は自然界で異常発生したり絶滅の危機に晒されたりするのではなく、人間がその繁殖を全てコントロールしているのですから、とても理想的なことと感じます。そして、積極的に遺伝学の研究なども行われているようです。キャバリアの心臓病に注目をして研究をはじめたのもスウェーデン大学で、もう10年以上も前から、学会で毎年発表を続けています。遺伝性の病気はあるのが当然で、それをどのように最少のレベルに封じながら良い犬の繁殖をしていくかがブリーダーの仕事

  キャバリアにおけるこのMVDは、本当はもっとずっと前から起こっていたと推測されます。あるイギリスのブリーダーが1990年に書いた本の中には、心臓弁膜症の遺伝様式は、ポリジニックと記されています。
  今日、これだけ蔓延(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、スウェーデンの5カ国でクラブが調査した結果、50%のキャバリアがMVDを発症)してしまったのは、生まれたときに先天的な病気として現れず、3歳を過ぎてから、多くは4〜5歳で発症するためだと考えられます。これは遺伝性として、ブリーディングからそのような犬を外すようにという認識が遅れるためです。その病気を発症した時点で、繁殖に使われている牝犬ではもうすでに何度もお産をして子犬をたくさん産んだ後だし、種犬では更に深刻で、数多くの牝犬との交配に応じ、MVD因子を持った子孫を数多く作ってしまった後・・・ということになります。
  MVDを発症した犬での繁殖はストップするように呼びかけていますが、後手にまわっています。このようにして、何とかしなくてはと気がついたときには、世界中に蔓延してしまっていました。海外の国々ではすでにブリーディングにおいての指導もされていて、MVDの発症確率を低くする努力がなされています。私たちの国ではまだそのようなこともなく、キャバリアを繁殖するものは、繁殖に使うキャバリアでの定期的な心臓のチェックで異常がないこと、その両親犬の親、つまり祖父母犬でもMVDを発症した犬はいなかったかなど、できる限りの調査をして、安全と思われる犬を繁殖に用いましょう。

  どんな犬種にもそれぞれ深刻な問題がありますが、キャバリアでは心臓という場所が場所だけに深刻に思いがちです。しかしMVDは慢性の疾患であり、もしもMVDになったなら、長く持病とつきあうような気持ちで上手にコントロールしてあげるように、病気と長く共生するようなゆったりとした気持ちで、受け止めてあげましょう。

坂井由紀




    cavalier@cavaliernet.com


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