もう1つのパズルのピース パット・トロッター著/提供:GRCJ




もう1つのパズルのピース(AKCガゼッタ98年6月号より) By Patricia V.Trotter

望ましい形質を重複して持つ牝犬は、素晴らしい子を生み出す可能性が高いのです
-パトリシア V. トロッター-

 1989年に、偉大な競走馬セクレタリアットが、蹄葉炎のために19才で安楽死された際、ケンタッキー大学の病理学者によって1つの大発見がなされました。すなわち、このチャンピオン中のチャンピオンであった馬は、サラブレッド史上かつてないほどの大きな心臓(推定約22ポンド:9.9kg)を持っていたのです!平均的な馬の心臓の重さは、8.5ポンド(3.8キロ)です。しかし、1973年のベルモント・ステークスでの彼の疾走を見た人にとっては、この大発見は驚くに当たらないかもしれません。

 私の著書「Born to Win」で、私はこのセクレタリアットのことを、本当に偉大な犬が他の同犬種の犬達とは違っているように、他の馬とはまるで「別の品種」みたいだと述べました。
 マリアンナ・ホーンは、彼女の最近の著書「X因子」の中で、遺伝的な心臓のサイズと競争能力との関連について報告しました。私は彼女と最近話す機会を持ちましたが、その時彼女は、ケンタッキー大学の研究によれば、彼女の理論はレース用のグレイハウンドにも適用できると話してくれました。

 心臓の大きさだけが、サラブレッドやグレーハウンドの競争能力に寄与している因子ではありません。健全であるための正しい構成と優れた運動能力を持っていなければなりません。セクレタリアットの父馬、ボールドルーラーは、心臓のサイズが大きくなかったのですが、その分それを強烈なスピードで補い、そのスピードを、息子セクレタリアットに伝えました。そしてセクレタリアットは母馬サムシングロイヤルのX染色体から、その大きな心臓を受け継いだので、偉大な馬になるべき遺伝的な組み合わせだったのです。遡れば、サムシングロイヤルは、この心臓の形質を、彼女の父親プリンスキロの母親から、あるいはサムシングロイヤル自身の母親から、あるいはその両方から受継いでその因子を重複して持っていたのかもしれません。

 ではこれらの事を良い犬をブリーディングすることにどのように適用できるでしょうか?ホーンの本は、サラブレッドの専門家が長い間推測していた「心臓の大きさは、X染色体によって遺伝する」と言うことを、証明しました。それで、サラブレッドのブリーダーは、血統書上の「ブラックホール」を避けて、優秀な牝馬を血統上の最適な場所に配置することによって、良い馬が生まれる確率を上昇させることができます。前回の私のコラムで、どの血統にも、その性染色体上の遺伝的情報が次世代に伝わらない「ブラックホール」という部分があることを図で説明しています。

 ブリーダー達は、長い間、子犬の性格には父親よりも母親のほうがより影響を与えると考えてきました。普通それは、子育て中子犬に寄り添うという母犬の役割によって、より大きな影響を及ぼしているからだと考えられていました。しかし、この性格の強さが伴性遺伝による遺伝形質だったらどうでしょう?

 X染色体は、Y染色体よりもかなり長いので、より多くの情報を持っています。その遺伝情報が望ましい特質であるなら、これは良いことです。台牝がX染色体上の情報を息子に伝えたら、その息子はその情報を自分の娘にのみ伝えることができ、その娘はその情報をその息子と娘の両方に伝える、というジグザグパターンで伝わっていくという事を理解することが重要です。

 牝は、2つのX染色体を持っていますから、その犬種の「偉大な台牝」というのは、優れた情報を持ったX染色体を2つ持っているゆえに、優れた繁殖成績を上げるのかもしれません。どの特質が実際に性染色体上にあるかにもよりますが、このような二重コピーによって、どんな牡と交配しても最高の子犬ばかりを生む台牝が存在するのでしょう。二重コピーであるなら、どんな組み合わせであっても、彼女の子はすべて彼女のその遺伝子を受け継ぐわけですから、その遺伝子が優性であるなら、必ずその特質を発現することになるわけです。もし、X染色体のその望ましい遺伝子が劣性だったら、二重コピーを持つ母犬はその遺伝子を全ての子に伝え、父からどういう遺伝子を受け継ぐかによって、その形質を発現するかしないかが決まるというわけです。もっと大切なことは、発現しようがしまいが、その子たちはその望ましい特質をキャリアーとして持っていて、次の世代に伝えることが可能であるということです。

   前述の「X因子」という本の中では、そのほかにもいくつかの身体的特質が明らかに性染色体上にあり、それらは一群の望ましい心臓の形質を示す馬達と関連があることも示唆しています。これらの特質には、体のタイプ、頭や耳の形などが含まれており、この情報は犬のブリーダーにとっても大変有益なものになりそうです。そしてホーンは、X染色体が各個体の体を形作るのに重要な役割をしていること、さらにこのすごい発見に加えて、知能もX染色体に関係しているという、コーネル大学における遺伝学的研究の報告もしています。

 ホーンの本を読んで驚いた事は、20世紀のチャンピオン達をたどって1837年生まれの名牝馬ポカホンタスに至り、さらに遡って1764年生まれのエクリプスから、異常に大きな心臓が伝わっていることということです。ポカホンタスは、33才まで生きた強い牝馬で、その1世紀後の彼女の子孫であるインペラチス(セクレタリアットの母方祖母)が、32才まで生きました。セクレタリアットの母サムシングロイヤル(インペラチスの娘)が、二重コピーを持った台牝だった可能性は高いです。

 優れた系統を作り上げた様々な犬のブリーダーに話を聞くと、共通して言うのは、性格の強さ、強靱な運動能力、そしてハンティング能力は、特に母犬の影響を強く受けるということです。ですから、凡庸な牝犬を、必要な部分すべてが改善されることを期待して、優秀な種牡に交配するというようなことは勧められません。この遺伝学的研究で示されるように、牝犬が本当に多大な影響を及ぼすのだとしたら、平凡な牝犬を遺伝子プールの中に入れないことが、とても大切なことと言えます。

 レベルの高くないショーでそこそこの成績を上げる犬というのが、残念ながらこのカテゴリーに入ります。そのような牝犬をブリーディングに用いないと決断することは心の痛むことです。しかし、ブリーディングに用いる牝のクオリティをより良いものにしていくという長期に渡る益は、ブリーダーとその犬種の両方にとって最大の益となります。

 絶えず犬種について学んでいるブリーダーを益するための、このような胸の踊るような研究成果を知ると、より一層、犬種の向上のために努力していきたくなるものです。私たちはどの遺伝情報がどの染色体にあるかを正確には知りませんが、将来的にはとりわけ重要な問題である、遺伝性疾患やその他の遺伝形質に関する答えが得られることでしょう。遺伝子マーカーは、ブリーダーがより健康で長生きする犬を繁殖することの助けとなるでしょう。

 そして、「X因子」という本は、以前に考えられたよりも一層台牝が重要であることを指摘しました。ですから、台牝の選択において妥協の余地はほとんどなく、良い構成を持ち、健全で、相応しい性格を持った牝を選ぶべきだということは明らかです。

 ブリードスタンダードを遺伝的な選択に適用させている現代のブリーダーは、いつの日かポカホンタスのような偉大な牝、つまり、ホーンがやったように、未来のブリーダーがその遺伝的な足跡をたどり、尊ぶような牝犬を作る事が出来るかもしれません。犬種の運命に影響を及ぼすこと、それがブリーダーの真の目的なのです。

AKCガゼット98年6月




    cavalier@cavaliernet.com


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