ブリーディングについて考える


「愛犬をブリーディングしたほうがいいのだろうか、すべきではないのだろうか?」と多くの人は一度は考えられるでしょう。しかし相応しい方法でブリーディングを行い、健康な子犬を得て、その子犬達を幸せにするというのは、簡単な仕事ではありませんし、たくさんの費用がかかります。

犬の繁殖やお産について詳しい獣医師や、長い経験を持つ信頼できるブリーダーに相談し、アドバイスを求めることをお勧めします。

もし次のような理由でブリーディングを考えておられるのなら、
もう一度考えなおしてみてください。

・お金を儲けたい。
ブリーディングを正しいやり方で行うにはたくさんの費用がかかります。相応しい牝犬を手に入れ、成熟するまで(最低2年)待ち、最適な種牡を探し、必要な遺伝性疾患の検査を行わなくてはいけません。長い時間と労力がかかります。交配料を払わなくてはいけませんし、妊娠中の管理や検査のための余分なお金もかかります。

出産のための時間(仕事を休まなくてはいけなくなるかもしれません。)や費用(もしお産の際異常があれば病院に連れていかなくてはいけません。)も必要です。生まれた子犬達は最低でも8週間手元に置いて世話をしなくてはいけません。そして広告を出して、それぞれの子犬に良い家庭を探し、新しい飼い主に渡す前にはワクチンも打たなくてはいけません。

子犬が具合が悪くなれば医療費がかかりますし、何頭かの子犬が死んでしまう時もあります。譲った後も様々なトラブルがあるかもしれません。ブリーディングは決して儲かるものではありません!多くのブリーダーは「とんとん」であればラッキーだと考えています。

・子供たちに命の誕生を見せてやりたい!
もし異常分娩で、子犬が死産だったらどうしますか?もし母犬が死んでしまったら?これは本当に起こりうる事です。子供たちに犬の出産を見せてあげたいなら、そのようなリスクを覚悟で愛犬に出産させなくても、ビデオテープなどの教材も売られています。

・愛犬とそっくりな犬がもう一頭欲しい!
もし愛犬と似た犬がもう一頭欲しいからという理由でブリーディングしたいとおっしゃるなら、ちょっと待ってください。どんなに愛犬があなたにとって素晴らしい犬であっても、その子犬もその犬とそっくりな犬になるという保証はどこにもありません。遺伝子の半分は別の犬から受継ぐのですから!

もしそういう理由でブリーディングするのなら交配相手もあなたが望むような特徴を持っていて、去勢されていなくて、飼い主も交配に応じてくれる犬を探さなくてはいけないわけです。そして生まれた子犬のうち、残す子以外に良い家庭を探さなくてはいけません。

そんなことをするよりも、別のブリーダーやレスキュー組織などから、あなたが望むような一頭の子犬を探して譲ってもらうほうが、ずっと簡単ですし、時間も費用もかかりません。愛犬が純血種で、信頼できるブリーダーから譲ってもらった子なら、同じブリーダーから似たような血統の子犬を譲ってもらうのがベストです。

・牝犬なら一度は子犬を生ませるべきだ。
これは間違いです。お産させることが牝犬の健康のためになるとか、それによって性格が良くなる、ということはありません。お産によって性格に変化があったとしてもそれは一時的なもので、子犬が離れれば元に戻ります。

お産が体にいいということもありません。避妊していない牝犬はすべて乳癌や子宮蓄膿症になるリスクを持っています。一度も妊娠させないで避妊手術をしても体に悪いことはありません。

・うちの犬は血統書付きだから!
ええ、そうですね。しかしそれは特別の事ではありません。血統書があるという事は単に、血統書を持つ同じ種類の犬の両親から生まれた、ということを意味しているに過ぎません。どんな犬であろうとも血統書があればその子犬にも血統書は発行されます。

しかし血統書を持っているといっても、その犬種を代表するようなクオリティを持った犬はそう多くありませんし、ブリーディングに適さない特質や欠陥を持っている犬もいます。





では、どんな犬をブリーディングすべきですか?

ブリーディングする理由はただ一つ、「誠実に犬種の向上を目指す」ということです。

あまりにも多くの犬がいい加減な動機でブリーディングされ、その結果良い飼い主に恵まれず、処分される犬がたくさんいます。また重い遺伝性疾患を持つ犬もたくさん生まれています。ブリーディングに用いられる犬は、しっかりとした血統的背景を持っていなければいけません。

つまり目的を持った良いブリーディングによって作られた犬であるべきです。そして体型や能力の面で、後の世代に貢献するような良い点を持っていて、客観的に見ても高い評価を受けるような犬であるべきです。そしてその犬種の良い典型でなくてはいけません。

ショーや訓練のタイトルはこれらのクオリティの指標の一つです。そしてその犬種に存在する遺伝性疾患、例えば股関節形成不全や膝蓋骨脱臼、白内障などの獣医学的な検査を受け、異常がないことが証明されていなくてはいけません。

遺伝性疾患

すべての犬種はいくつかの遺伝性疾患の問題を抱えています。 自分がブリーディングしたい犬種について勉強し、どんな問題があるのかを調べてください。そして自分の犬の系統や先祖犬についても可能な限り調べてください。

以下は主な遺伝性疾患のリストです。

眼の病気

欧米ではほとんどの犬種において、様々な眼の遺伝性疾患があるので、ブリーディングに用いる犬は年に一度眼の専門的検査を受けることが求められています。輸入犬の場合はその証明書を確認してください。日本においても専門的な検査を受けることは可能です。眼の遺伝性疾患には次のようなものがあります。

・進行性網膜萎縮(PRA)
この病気は最終的には失明に至ります。いくつかの犬種では2、3才以下で急激に発症します。もっと遅い時期、4才から8才で発症する犬種もあります。アイリッシュセッターにおいては、この病気を持つ犬および、見かけは正常であるけれどもこの病気の遺伝子を持つキャリアーを発見する検査があります。

しかし他犬種には適用されていません。遺伝様式は単純な劣性遺伝ですが、発症までに時間がかかるため、ブリーディングプログラムから排除することを難しくしています。もしある犬がPRAであるなら、その両親もPRAもしくはそのキャリアーということです。

・網膜異形成
この病気も失明に至ります。遺伝性であると考えられています。子犬の時に発症する犬もいますが、キャリアーの場合は、子犬にこの病気を出すまでわかりません。

・コリー眼異常(CEA)
これはコリー(ラフ、スムース、ボーダー、ベアデッド)およびコリーの血液の入った犬に見られる眼の異常です。この病気も失明の原因となり、遺伝性のものです。

・白内障
白内障には多くの原因があり、様々なタイプがありますが、若年性白内障は遺伝性疾患であり、この病気を持つ犬はブリーディングすべきではありません。

・眼瞼内反症および外反症
これは目蓋が内へ巻き込む、あるいは外に巻き込むもので、眼の炎症や痛みの原因となります。


股関節および関節の異常

ほとんどの犬種で様々な関節疾患が見られます。愛玩犬種にもあります。小型犬だから股関節形成不全はありえない、とは言えません。

・股関節形成不全
この病気はおそらく最も良く知られているでしょう。これは股関節の発達の形成が正常に行われず、骨盤の受け皿(寛骨臼)が浅く、大腿骨頭との噛み合わせが悪い状態です。そのために関節や骨の変化が起こり、びっこや痛みの原因となります。重症例ではひどい痛みや関節炎により歩行困難となり、手術が必要となる場合もあります。

軽症の場合は何の症状もない場合もありますが、ブリーディングに用いるべきではありません。中型から大型の犬種に見られますが、小型犬種、たとえばコッカースパニエルやシェルティ、シーズー、キャバリア等にも見られます。

股関節に異常がないことを確認するためにはレントゲン撮影をして、専門家に診断してもらうことが必要です。アメリカのOFAという機関では、レントゲン写真の診断と、正常な犬の登録、証明書の発行を行っており、日本からのレントゲン診断依頼も受け付けています。

送付法などの詳しい資料をご希望の方はDog−Web編集部までお問い合わせください。正式な証明書が発行されるのは2才以上です。

・離断性骨軟骨炎(OCD)
これはいろいろな関節に起こり得ますが、ブリーディングにおいて問題となるのは肘に生じるものです。(肘異形成とも呼ばれます)肘関節の骨の変化や骨の遊離によって、痛みや前肢のびっこの原因となります。この病気もレントゲン撮影で診断され、股関節と同様OFAでは診断と登録、証明書の発行を行っています。

・膝蓋骨脱臼
これは膝のお皿が内側に外れる状態で、小型犬に多く見られます。膝蓋骨が外れると後肢は伸びたままになってしまいます。触診で診断することができます。重症の場合手術か必要となることもあります。軽症の場合は生活に支障はないかもしれませんが、遺伝的なものですから、ブリーディングに用いるべきではありません。

その他にも犬種によって、様々な関節疾患があります。ここでは主なものを挙げただけです。関節疾患の中には遺伝性ではないものもありますが、たとえそうであってもそのような犬を妊娠させると、犬に負担をかけることになるということを忘れないでください。健康状態が万全でない犬は妊娠させるべきではありません。

その他

・遺伝性の聾(あるいは難聴)を持つ犬種がいくつかあります。(ダルメシアン、イングリッシュコッカースパニエル等)そのような犬種は子犬の時に聴覚のテストをし、異常がある犬はブリーディングしてはいけません。

・様々な犬種で遺伝性の心臓疾患があります。定期的に経験ある獣医師に聴診してもらい異常がないか確認しましょう。アメリカでは、遺伝性心臓疾患が問題となっている犬種においては心臓専門医による公的な診断書を取得することが常識となっていますから、輸入犬の場合は確認してください。

・てんかん、アレルギー体質、その犬種に相応しくない性格を持つ犬もブリーディングすべきではありません。

当然のことながら、これらの遺伝性疾患については、牝犬だけでなく交配する牡犬についても検査されるべきです。



性格

家庭犬にとって最も大切なのは性格です。性格に問題のある犬は決してブリーディングするべきではありません。そのようなブリーディングが行われることによって犬種全体の一般的性格が劣化してきた例もあります。

人に対して攻撃性を持つ犬、過剰に興奮する犬、恐れから噛み付く犬、シャイな犬等はブリーディングすべきではありません。ハッピーで、自信があり、かつ従順な犬をブリーディングしてください。特に、その犬種に求められているような気性について慎重に考慮してください。



血統の研究

ブリーディングを考えているそれぞれの犬の血統を注意深く検討しましょう。ブリーディングに用いる犬は、慎重に計画されたブリーディングによって作られた犬であるべきです。弱点をカバーする血統の選択が必要です。血統的に合わない組み合わせをしないようにしましょう。

それには交配相手候補について、詳しく調べる必要があります。そしてその犬種について豊富な知識と経験を持つ人にアドバイスを求めましょう。単に「良さそう」な2頭を安易に交配しても、その犬達の良い点がうまく噛み合って子犬に受継がれることは少ないのです。また、どちらも同じ遺伝性疾患のキャリアーであったり、同じ欠点や欠陥を持っていたりするかもしれません。そのために両親やその親族、先祖について、性格、タイプ、健全性など、できるだけ情報を集めましょう。

自分自身に正直になってください。もし愛犬がその犬種の典型からかなり外れているなら、ブリーディングしないでおきましょう。そのような犬をブリーディングしても親より良い子犬が生まれるより、欠点を更に強調してしまう可能性のほうがずっと高いのです。犬種のスタンダードを勉強し、経験と知識のある人に客観的に評価してもらってください。