成熟したブリーダー
(AKCガゼッタ97年6月号より 訳文はGRCJニュースより)
By Cindy Vogels
どんな犬種においても、その犬種愛好家の長老という域に達したベテランブリーダーからなる核となるグループがあります。彼らはその才能と献身によって仲間からの信頼を得、そのような高い位置づけをされているのです。これら長老のような成熟したブリーダーは、犬を各部分を総合した全体像として見ます。「犬の全体を見る」ということに関する記述はたくさんありますが、それは予想よりもはるかに難しいことです。ブリーダーは各部分をバラバラに見るのではなく、常に全体に焦点を合わせていなければいけません。そうすることによって、各部分の組み合わせの善し悪しを確認することができるのです。それは各部分の調和、言い換えればバランスであり、それが全体のクオリティを左右するのです。
犬の全体を見る
この「ブリーダーの第3段階」に達する前に、ブリーダーは犬を欠点の集合体として見ようとするようです。前回の記事で述べたように、この「欠点探し」は、欠点を探し出す自分の能力に得々と自己満足している、過度に批判的な10代の若者による批評のようなものです。しかし、成熟したブリーダーは、ちょうど成熟した大人が他の人の良い所を認めようと努力するように、どんな犬でも良い特質を探して評価します。そして、成熟したブリーダーは、凡庸なものを見過ごさず、迷わず排除します。
しかし成熟したブリーダーと、まだ欠点を全く見ることができないビギナーとを同じように考えてはいけません。つまり、成熟したブリーダーは、犬の欠点を犬の全体像の中の一部として見ているというだけなのです。あまり良くない犬を見て、その欠点を指摘することは、ほんのちょっとの経験を積むだけでできるようになります。同様に、とても傑出した犬を見分けることも誰でも出来ることです。
しかしほとんどの犬は、極めて素晴らしいわけでも、とてもひどいわけでもなく、長所も欠点も持っていて、いわゆる中間なのです。成熟したブリーダーは犬の長所と欠点の両方を総合して見て、長所が欠点を上回っているかどうかを判断し、犬種に役立たせるのです。ブリーダーは欠点によって犬を評価するべきではありませんが、同様に、各特質を別個に見てはいけません。劣った犬であっても部分的に良いものを持っているかもしれません。
そして全体のクオリティ不足を見過ごして、その一部分の望ましいところに注目してその犬が望ましいと思い込んでしまうことがあります。しかし、そのような犬をブリーディングプログラムに取り入れるなら、その一部分の良いもののために、全体のクオリティを犠牲にすることを覚悟するべきです。成熟したブリーダーでも部分的なもの(ある一つの長所)を見ているように見える時もあるかもしれませんが、しかし決して全体像を見失うことはありません。
忍耐力と勇気を持つ
成熟したブリーダーは忍耐強く、そしてきちんとした計画を立てます。彼らは、一胎一胎は、理想の犬に向かっての踏み石であると考えます。彼らは一つの交配の結果の成り行きを見てから(生まれた子犬達が成長するまで)、その牝の次のブリーディングの計画を立てます。また、成熟したブリーダーは、彼らが助言を与えている人達に対しても辛抱強く、その生徒達と時間をかけて話し合います。そして青年期のような辛抱のない時期は、誰もが通る過程であり、彼らだけがその青年期ブリーダーがもう一段階成長するのを助けることができるということを知っています。ブリーダーとして成熟するのには時間がかかるものなのです。
人の言う事に耳を傾けることができるという事が成熟したブリーダーのもう一つの証しです。これは、人が話している時に注意を払うということ以上の意味を持っています。成熟したブリーダーは、評価されている本や記事を読み、セミナーに出席し、他の経験豊富なブリーダーに助言を求めます。彼らは、たとえ今は立場が同じであるにしても、自分の助言者に忠実です。彼らは自分が独り立ちしていることを自覚していますが、その一方で助言者が与えてくれたものに感謝しています。
成熟したブリーダーは、常に考え、常に自分のブリーディングストックとブリーディングプログラムを再評価しています。また、常に新しい考えを受け入れ、他の人の犬のクオリティを認めて、自分のブリーディングプログラムに取り入れることができます。犬のブリーディングで成功するために頻繁なブリーディングは必要ありません。また、ブリーディング計画を途中で変える必要もありません。それは優柔不断さや勇気のなさの表れとも言えます。新たな犬が登場したなら、新たな事を考えるべきです。自分の理想についてのビジョンが明確である限り、そのビジョンは自ずと進化していき、ブリーディングプログラムは向上し続けるはずです。犬種が進化していくのと同様に成熟したブリーダーも進化していくべきで、決して停滞すべきではありません。
すべての真剣な犬のブリーダーは、1犬種だけでなく他の犬種からも経験を得るべきです。より多くの犬種の特質を学べば学ぶほど、ブリーダーはより多くの幅広い知識を得ます。また、経験とはかけがえのないものであり、より多くの経験を積むことによって、人間が出来て来るものです。どんなに天性の良い「目」を持っていたとしても、犬を見る目を訓練していかなくてはいけません。すべてに精通することが、目標に到達するための唯一の道です。良いブリーダーは、子犬であれ成犬であれ、犬を見る機会があれば、それを逃すことはしません。犬を見る機会を多く持って、視野を広くしていくのです。そして、その犬種の本来の目的を明確に理解することによって、その作業特性を維持したブリーディングができます。
ドッグスポーツに貢献する
コンフォメーションはドッグスポーツの一つの分野に過ぎません。どんなブリーダーも、自分が重点を置く分野を選ぶものですが、もしコンフォメーションにしか参加したことがないのなら、オビディエンストレーニングにも挑戦してみるべきです。オビディエンスにしか参加したことがないのなら、同様にコンフォメーションでのショーイングもやってみるべきです。ハンティングテスト、アジリティ、フライボール、フリースタイル(訳注:音楽に合わせた脚側行進の競技)など、どんなイベントであれ経験することは何事にも代え難いものです。多くの分野で経験を積めば積むほど、ブリーダーはさらに円熟していくでしょう。
成熟したブリーダーは、ドッグスポーツに貢献し、犬の世界で活発な役割を果たします。ドッグスポーツは、魅力的な「人種のるつぼ」(職業・世代・人種を越えていろいろな人が参加している)であり、犬を通じて、一生涯の友情を築くこともあります。加えて、地方の犬種クラブや全犬種クラブに参加することによって、社会に貢献する機会も得られます。そして、その犬種に深くかかわることにより、その犬種の母体クラブの活動に参加することにもなるでしょう。そのような奉仕は、良い仕事をした満足感だけでなく、ドッグスポーツからの多くの喜びや楽しみという充分な見返りをブリーダーに与えてくれます。
犬が「完成した1頭の犬」であるのと同様に、私達も、各部分の集合体である「完成した1人の人間」です。完成した犬のブリーダーになるために、私達は成熟したブリーダーとして、純血犬種のスポーツに対して貢献する奉仕を行いながら、時間をかけ、理想を追うために必要な知識を身につけていく必要があります。
(著者Cindy Vogels は30年以上の経験を持つテリアのブリーダーで、10種類のテリアの公認審査員です。)
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